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お花の咲く頃。

”咲子”という字は、お父さんが「きれいな花が咲き乱れるような
優しく美しい心を」との思いでつけられました。

そのお父さんは”咲子”が生まれて直ぐに、春の訪れを待つように
病気で亡くなったので、毎年のように春になると咲子”のお母さん
から「咲ちゃんの名前はお父さんが、春になりきれないお花が
いっぱい咲いた時のように、きれいな心を持つようにとつけられたのよ。
だから咲ちゃんは、どんな時も人の悪口を言ったりしないで、
優しい心でいなきゃね。」と言われ続けていました。

高校1年生になり、明るかった”咲子”が日に日に暗くなって
行きました。お母さんはスーパーのレジやビル・飲食店の清掃などをして
一緒懸命に働き”咲子”を女で一つで育てて来ました。

夜遅くに疲れて帰ってきた家のテーブルには、”咲子”の為に
作っておいたご飯が手付かずで残っている日が多くなりましたが、
「きっと、慣れない学校生活で疲れているのだろう。」と、
その冷たくなったご飯をひとり食べるのでした。

そんなある日、お母さんがパートの合間を縫って夕ご飯の支度に
帰る途中に、まだ授業中のはずの”咲子”が見た感じあまり印象の
良くないグループと前から歩いて来たのです。

「咲ちゃん?学校はどうしたの?」と声を掛けると
「誰だよ”咲って!”」と今までに見たこともない剣幕で言い放ち、
「あんたみたいな、汚い女なんか知らない!!」と言いそのまま
立ち去って行きました。

突然のことに、奇異な目で通り過ぎる人たちの中で
ただただ呆然と立ち尽くすだけでした。。。。。

実は、”咲子”は学校でイジメに合っており、そのイジメの原因が
お母さんだったのです。”咲子”が高校に上がるとお母さんと同じ
スーパーで働いている同級生の母親がいて、

咲子”のお母さんがまじめに一所懸命に働くので、
お客さんからの評判もよく、いつも上司から褒められているので
その同級生の母親は面白くなく、家に帰って来ると娘に
「あんたの同級生の”井上さん”のお母さんはね、色目を使い
課長さんに可愛がられているのよ!そのお陰で私はいつも
比べられるの、本当に頭に来るわ!」との理由でその同級生の
グループに苛められ始めたのです。

何かにつけて”咲子”を苛めるようになっても、”咲子”は小さい時から
「人の悪口を言ってはダメよ。いつも優しい心でいるのよ。
その願いを込めてお父さんがつけたんだから」
と言われ続けていたので、酷いことを言われても

「悪口は言ってはダメ。優しい心で。」と心の中で何度も繰り返し
ぐっと我慢をしていましたが、ある時その苛めの中心人物が
「知ってる?この人のお母さんはね、いやらしいマネをしているの。
その汚いお金でこうして学校に来てるの?みんなどう思う?」

「最低ー!」「きったな~い!」「いやらしい臭いがするわ!」
などと容赦のない言葉を浴びせられたのです。

”咲子”はその時初めて知りました。「苛めの原因はお母さんにあり、
しかも大好きなお母さんが恥ずかしいことをしている」と。

そう信じ込んでしまった”咲子”は学校へも行かなくなり
母親の顔を見るのも口を聞くのも、ましてや汚い手で作った
料理なんて。と思うようになり、同じく学校へ行っていない
グループと遊ぶようになったのです。

そんな矢先に街で偶然に出くわし、先ほどの言葉になったのです。
初めてでした。今までは口答え一つしたことのないのに、あのような
暴言を吐いたのは。

心が咎めましたが、「あんたが悪いからだ、あんたが悪いから。」と
心の中で何度もつぶやいて必死で後悔の念を吹っ切ろうとしました。

夜遅くに家に帰ってくると、
いつも「”咲子”が暗い部屋に帰ってくるのは可愛そう」と言うことで、
部屋の電気は点けていてくれているのですが、その日に限って
部屋は真っ暗です。

その時”咲子”の心に何か嫌な直感が走りました。
急いで部屋に入り電気をつけると、テーブルの上には何もありません。
しかも、母親が帰ってきた形跡もないのです。

携帯のない時代です。”咲子”は急いで家の電話から母親の職場の
スーパーへ連絡をしました。すると、職場の人が「井上さんのお嬢さん?
いまどちらにいるの?お母さんが大変なの、すぐに病院へ行ってもらえる」

”咲子”は一瞬、頭が真っ白になりました。
それはちょうどお花がきれいに咲く季節でした。。。。。

今年も”咲子”は3歳になる女の子と2人でお花の咲き乱れる公園にいます。
大好きだったお母さんが脳溢血で亡くなって8年、しばらくは後悔ばかりして
いましたが、母親が亡くなって何年か目のお花が咲く頃の季節にお母さんが
夢に出てきました。

「おかあさん!生きていたの!死んだのはウソだったの?今までどこに
行っていたの?咲ねぇ、誤解してお母さんに酷いこと言ったから罰があたったと
思っていつも泣いていたのよ。おかあさん許してね。ねぇ、許してくれる?
これからは昔のように咲はおかあさんの言うこと聞くから。だから、また
一緒にお花を見に連れて行ってくれる?」

夢の中のお母さんはただ無言で微笑んで何度も何度も頷くだけでした。
”咲子”は泣きながら夢から覚めて、辺りを見ましたがおかあさんの姿は
ありません。が、確実にさっきまでお母さんがいたような感じがありました。
それは懐かしいにおいでした。

「ねぇ、”ゆうちゃん”あなたもこのお花のようにきれいで、
そしてあなたのおばあちゃんのように、優しくなるようにね。」

あれから毎年、沢山のお花が咲く公園に”咲子”はベンチに座り
時間の許す限り花を見続けて来たのです。

「きれいな、お花畑の思い出」より。

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